「診断士の独立開業日記」vol.8
『目指せプロコン! 駆け出し診断士のはじめの一歩』第2回

田中聡子(中小企業診断士)

前回は、私の長い受験生活の話にお付き合いいただきまして、ありがとうございました。今回は、合格の年に起きたことを振り返ります。ここでのご縁もまた、後へとつながっていくので、「絆って本当にありがたいな」と思っています。

さて、ようやく合格した診断士試験。合格がわかったときは、「これで少しはのんびりペースになるのかな」と思っていたのですが、そんな気持ちはどこへやら…。したいことが次々に起こってきます。

 
一生の宝物・『ふぞろいな合格答案』
一生の宝物・『ふぞろいな合格答案

合格直後からメンバーになった、『ふぞろいな合格答案』プロジェクト。受験生のために、少しでも早く出版したい気持ちと、よいものをつくるために内容を精査したい気持ちが、メンバーの中で交錯します。白熱した議論は、なかなか終わりません。貸し会議室が閉まった後は、終電までファミレスで打ち合わせをし、それでも終わらずに、メールで再びディスカッション。「第1回締切は深夜1時、第2回締切は朝7時です」というメールを読み、「徹夜が前提の締切ね!」って苦笑いしながら作業したこともありました。メンバーとの絆、そして皆で寄せ書きした本は、一生の宝物になりました。

また、『ふぞろいな合格答案』の出版と並行して、実務補習がスタートしました。5日間コースの指導員の方は、ある受験校の講師をされている有名な先生でした。でも、それに負けず劣らず、「超」個性豊かなメンバーたち。初日から、5人で10リットルものビールを飲んでしまったのが、絆を深めたのでしょうか? 18日間で合計173件のメールをやりとりし、雪の中、議論を重ねた発表は、社長さんにとても喜んでいただけたそうです。顧問税理士の方から、「社長は廃業を思い悩んでいたけれど、もう一度頑張ろうという気になりました」というお礼のメールをいただいたときは、やりがいと責任の重さを感じました。

実務補習メンバーの皆さん
実務補習メンバーの皆さん

「診断士試験に合格したのなら、セミナー講師をしてみない?」。こんなふうに、受験生時代の友人から声をかけてもらったのも、合格した年のことでした。「百貨店にいるのなら、接客や話し方について語れるよね? 合格したら頼もうと思っていたんだよ」―えっ、私にそんなことを言ってくれる人がいるの? 少し驚きましたが、その気持ちが素直に嬉しくて、2つ返事で引き受けました。とは言え、人前で語ったことなんてありません。はて、どうしよう…。新入社員時代に会社で配られたテキストを、本棚の奥から引っぱり出しました。ほかにもさまざまな資料を集め、構成を考えます。「ここはゴロ合わせにしたほうが、楽しんで覚えてもらえるかな」、「飽きられると悲しいから、クイズを入れてみよう」。こうして、資料作成に1ヵ月以上かけ、自宅の姿見(鏡)を相手に、話す練習をくり返しました。そしてセミナー終了後、参加いただいた方から、「楽しくてあっという間でした」という感想をいただいたときは、涙が出るくらいの嬉しさを感じました。

ただし、大きな反省点も…。このセミナーを撮影したDVDを後日いただいたのですが、復習のためにさっそくみてみると、すごいスピードで話している私。そう、私はとても早口なのです。ゆっくり話すよう心がけたつもりでしたが、緊張もあったのでしょう。今思い出しても、赤面モノです。さらに告白すると、一緒に届いたアンケートには、「少し早口に感じました」との意見が2つもありました。「いつもの3倍、ゆっくりのつもりで話さないといけないのね…」と、反省しきりでした。早口は今も直っていませんが、少しは改善されていると思いたいです^^;。

先日、研究会で発表した際、友人から、「以前よりゆっくり話すようになってきましたね」と、ありがたいコメントをいただきました。最近は、セルフチェックをしようと、自分の講義をボイスレコーダーで録音し、聞き直すこともしています。自分の声を聞くのは恥ずかしいですが、その声とスピードで話しているのが現実ですものね。練習をくり返し、この連載が終わるまでには、話し方ももう少し上達していたいものです。

このほかにも、小売店の覆面調査をしたり、「ふぞろいな合格答案」プロジェクトがご縁で所属した研究会では、海外まで行って飲食店のメニュー提案の材料を集めたり…。思いのベクトルが同じメンバーとの活動を通じ、自分一人ではできないことが、どんどん形になっていきました。

「やっぱり、診断士の活動って楽しい。これが本業だったらいいのになぁ…」―そんな気持ちは、徐々に強くなっていきます。その一方で、一人前に稼げる自信は持てず、独立は相変わらず夢物語のはずでした。

ところが、です。夢って、言葉に出したときから、実現に近づき始めるのでしょうか。「『叶う』という字は、『十回、口にする』と書くよね。思いは、どんどん周囲に伝えるべきだよ」。こんな話を聞いたことがあります。私の夢も、口にした頃から、少しずつ状況が変わり始めたのです。




中小企業診断士 田中聡子(たなか さとこ) プロフィール

田中聡子

1971年生まれ。青山学院大学経済学部卒業後、百貨店に入社し、販売や仕入等に携わる。

2008年中小企業診断士登録。2年間企業内診断士として活動した後、2010年1月に独立。現在は、百貨店での経験を活かし、接客やコミュニケーションに関する講師業や執筆活動などに従事している。