第8回「502教室のコラム」

三上 康一(中小企業診断士)

自家用車かれこれ10年ほど前、忘れたくても忘れられない出来事がありました。

私は当時、高速道路を使い、自家用車で片道1時間程度を費やして通勤していました。現在は廃止となりましたが、当時、高速道路のサービスエリアなどでは、ハイウェイカード(以下、ハイカ:高速道路料金の支払いに使用できるプリペイドカード)が販売されていました。ハイカは3,000円券から50,000円券まで数種類あり、5,000円券以上は、高額になればなるほど、プレミアムが上乗せされていました。ちなみに、50,000円券を購入すると、58,000円分の高速道路料金が利用可能だったため、私は、この50,000円券を定期的に購入し、通勤に使用していたのです。

その日は、快晴でした。職場に向け、自宅を出発しようとしたとき、ふと、駐車場に停めてある自家用車のドアがわずかに開いていることに気づいた私。ドアの窓枠には、何か平べったいものが差し込まれた形跡もありました。「まさか…」と思い、車内のサンバイザーの裏を確認します。

すると、いつもサンバイザーの裏側に差し込んであるハイカがないのです。それも、前日買ったばかりの50,000円券です。私が前夜、帰宅してからは、誰も一度も車には乗っていません。車上荒らしに遭ったことは、一目瞭然でした。

すぐに110番をし、まもなく到着した警官に事情を説明します。その際、警官が発した言葉は、今でも忘れられません。

「車の中で貴重品を隠す所は、ほとんど決まっています。車上荒らしは、そこだけを狙うのです」

その言葉を受け、車内で貴重品を隠せそうな場所を考えてみると、たしかにサンバイザーの裏、小銭入れボックス、ダッシュボードと、ほとんど決まっていることに気づきました。

診断士の試験問題においても同様で、受験生が間違う問題・引っかかる問題は、ほとんど決まっています。それは、車を設計する際、貴重品の収納場所を決めるのと同様に、出題者の意図が働いているからです。受験生が間違う問題・引っかかる問題は、出題者が間違わせたい問題・引っかけたい問題だ、ということです。これは、問題をつくってみると、より理解できます。出題する立場として、あまりにも簡単な問題はつくりたくないのが、人情というものでしょう。

しかし、誰もが間違う問題や、引っかけ問題だけを出題してしまうと、その年だけ大幅に、試験の難易度が上がってしまいます。そこで、作問者が参考にするのが、過去問です。過去問をあたることで、過去に行われた試験の難易度がわかるため、これを参考に、難易度の低い問題を織り交ぜていくのです。

では、このことを試験対策として、どう活かすか。解けるという確信がある場合は別ですが、出題者が間違わせたい問題や、引っかけ問題は、捨てることです。逆に、全体の難易度を下げようとして出題した簡単な問題は、確実に正解しなければなりません。とすると、間違わせたい問題や、引っかけたい問題をどうやって見極めるのか。それは、過去問をくり返し解くことです。もちろん、目的もなく何度も解くのではなく、出題者の意図を汲み取りながら解くことが必要です。「これは間違わせたくて出題しているな」、「これは引っかけようとして出題しているな」―。何度も解いているうちに、そうした出題者の意図に気づきます。さらにくり返し解くと、引っかけパターンや、出題傾向まで把握できるようになります。私の経験から申し上げると、過去問は、最低3年分は暗記できるレベルまで、くり返し解く必要があると思います。

人の行動パターンや思考に、大きな差はありません。車内に貴重品を隠す場所はだいたい決まっていますし、間違う問題や引っかかる問題もおおよそ決まっているものです。知識を増やし、多くの問題に接して、間違わないように、引っかからないようにするのも一考ですが、難問に真正面から挑むのは、リスクが大きすぎます。「難問を捨てる勇気」が、結果の差につながる気がしてなりません。

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