「診断士の独立開業日記」vol.11
『目指せプロコン! 駆け出し診断士のはじめの一歩』第5回

田中聡子(中小企業診断士)

「初めは仕事もないだろうし、自分のしたいことをじっくり考えてみよう」

そう考えながら始めた独立生活でしたが、予想に反して、スタートダッシュの日々が始まりました。

独立を決めたとき、私はお世話になった方々にその報告をしました。「何がやりたいの?」と聞かれたら、いまできることではなく、自分のしたいことを答えました。すると、いままでお世話になった皆さんから、さまざまなお話をいただくことになったのです。セミナー講師、執筆活動、創業支援…。1ヵ月って、こんなに短かったかしら? そう思うのはきっと、毎日新しいことや驚きがあるからですよね。

独立して仕事をするようになり、いままでにもまして、「世の中って、あったかい」と感じるようになりました。「初めまして」とかけた電話に対して、親切に答えてくれる方って、こんなに多いのですね。

創業支援の一環で、女性起業家の事例集をつくったときのことです。探していた業種で、女性起業家の知り合いがいなかった私は、複数の女性起業家のことが書かれた本を購入し、そこに載っていた電話番号に突撃取材をしていました。

「初めてお電話いたします。私、中小企業診断士の田中聡子と申します。実は…」
勤務先の社名で電話していたときと違って、ドキドキです。

「きっと、セールスと間違われるよね…。『中小企業診断士って、何? 間に合ってますから、もう電話しないでね』っていわれても、へこまないこと!」

そう自分に言い聞かせてかけ始めたのですが、皆さんの親切な対応に、驚きの連続でした。

「今日は忙しいのですが、明日15時以降ならお時間がとれます。明日また、お電話をいただけますか?」

「せっかくですから、会ってお話ししましょう。何日なら、いらっしゃれますか?」

無報酬の取材依頼にもかかわらず、とてもあたたかいのです。ある関西の方には、すっかり仲良くしていただき、初めての電話で1時間近くお話ししてしまいました。あまりにも嬉しくて、「どうしてこんなに親切にしてくださるのですか?」と聞いた私に、その方はこういいました。

「田中さん、事業を起こすときってね、人の縁でお仕事がつながっていくのです。私も仕事を始めたときは、そうやっていろんな方に助けてもらっていた。自分で仕事を始めた人は、みんなわかっている。だから、気にしなくていいのよ。お仕事、頑張ってね。早く軌道に乗るといいわね」

顔も知らない方からのあたたかい言葉は、電話を切ってからもずっと頭の中で響いていました。

一方、苦労していることも、数え上げればキリがありません。たとえば、受験生時代にも苦労した「経営情報システム」。私はいまも、ITが苦手です。「ITが使いこなせれば、もっと効率的に働けるだろうに」と思いながら、悪戦苦闘の連続。思いがけないところでパソコンがフリーズしたり、突然、自宅の無線LANが接続されなくなったり…。1年前に友人から教わるまでは、キーボードの「ctrl+S」でwordなどの上書き保存ができることすら知らなかったくらいですから、「IT以前」といわれそうですが…。

でも、アウトプットの機会って、インプットの原動力になりますよね。こんな私が、友人と一緒にITの記事を書くことになったのです。

月刊『企業診断』2010年8月号ご覧いただいた方がいらっしゃると嬉しいのですが、5人で書いた月刊『企業診断』2010年8月号「ITキャズムの渡り方」のことです。これは、ITオンチの駆け出し診断士・ワタルくんが、謎の仙人に助けられて成長していく物語。この記事は、「フリーソフトで、簡単・便利に環境改善」というテーマだったのですが、ITオンチの私には、そもそもネタがありません。便利そうなソフトを試しても、途中でフリーズしたり、うまくインストールできなかったりで、連載の第2回で書いた『ふぞろいな合格答案』作成時の徹夜を思い出させる日々でした。

でも、そんな私が、ITに詳しい執筆メンバーの愛のムチ(?)を受けながら、少しでも知識を得られたというのは、まさに記事の中のワタル君状態だったのかもしれません。ITの克服はまだまだ先ですが、この執筆を通じて、IT環境改善の階段を1段くらいは上れたのかな、と思っています。

こんな日々を送るうちに、あっという間に半年以上が経ちました。連載も、いよいよ残り1回です。次回は、今後の目標にも触れてみようと思います。それではまた、来月もどうぞお付き合いくださいね。




中小企業診断士 田中聡子(たなか さとこ) プロフィール

田中聡子

1971年生まれ。青山学院大学経済学部卒業後、百貨店に入社し、販売や仕入等に携わる。

2008年中小企業診断士登録。2年間企業内診断士として活動した後、2010年1月に独立。現在は、百貨店での経験を活かし、接客やコミュニケーションに関する講師業や執筆活動などに従事している。